古典和歌stream

木のもとに住みける跡を見つるかな
那智の高嶺の花を尋ねて

歌の意味
花山院が桜の木の下に住まわれた跡を見たことだ。那智の高嶺の花を尋ねて来て。
鑑賞
雑歌 852

詞書「那智に籠りて滝に入堂し侍りけるに、この上に一二の滝おはします、それへ参るなりと申す常住の僧の侍りけるに、具して参りけり、花や咲きぬらんと尋ねまほしかりける折節にて、たよりある心地して分け参りたり、二の滝のもとへ参り着きたる、如意輪の滝となん申すと聞きて、拝みければ、まことに少しうち傾きたるやうに流れ下りて、尊く覚えけり、花山院の御庵室の跡の侍りける前に、年古りたりける桜の木の侍りけるを見て、住みかとすれば、と詠ませ給ひけんこと思ひ出でられて」
 熊野の那智に籠もって滝に参籠していたとき、この上に一の滝と二の滝があり、そこへ参るのだという常住の僧がいたので、連れ立って参った。ちょうど花が咲いたかと尋ねてみたい時節だったので、よい機会だと思って山を分けて参った。二の滝のもとへ着くと、如意輪の滝というと聞いて拝んだところ、まことに少し傾いたように流れ下って、尊く思われた。花山院の庵室の跡の前に古い桜の木があるのを見て、花山院が「住みかとすれば」と詠まれたことが思い出されて詠んだ歌である。花山院が桜の木の下に住まわれた跡を、那智の高嶺の花を尋ねて来て見たことだ、と詠む。
 花山院の歌は詞花和歌集に入る「木のもとを住みかとすればおのづから花見る人になりぬべきかな」で、那智で修行した院の遺跡に、その歌を重ねている。

 初句「木のもとに」は、桜の木の下に、の意で、花山院の歌の「木のもと」を受けている。
 二句「住みける跡を」は、住んでおられた跡を、の意で、花山院の歌の「住みかとすれば」を踏まえている。
 三句「見つるかな」の「かな」は詠嘆の終助詞で、見たことだ、の意である。ここで句切れとなる。
 四句「那智の高嶺の」の「那智」は熊野の那智山で、修行の霊地である。
 結句「花を尋ねて」は、花を尋ねて来て、と倒置によって三句を受けて結ぶ。詞書の「花や咲きぬらんと尋ねまほしかりける」に当たる。

にふだう:寺院や霊場に籠もって修行すること
をりふし:ちょうどその時
作者
西行
出典
山家集
前の歌
露と消えば蓮台野にを送りおけ 願ふ心を名にあらはさん
次の歌
いとどいかに西へ傾く月影を 常よりもげに君慕ふらん