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身の憂さを思ひ知らでや止みなまし
背くならひのなき世なりせば

歌の意味
わが身のつらさを思い知ることもなく終わってしまったであろうか。世を捨てるという習わしのない世であったならば。
鑑賞
雑歌 908

詞書「五首述懐」
 題「五首述懐」は、思いを述べる五首の歌で、ここから第九百十二首まで続く。世を捨てるという習わしのない世であったならば、わが身のつらさを思い知ることもなく一生を終えてしまっただろう、と詠む。出家という道があるからこそ、かえって俗世に生きるわが身のつらさを思い知る、という逆説を述べている。

 初句「身の憂さを」は、わが身のつらさを、の意である。
 二句「思ひ知らでや」の「で」は打消の接続助詞、「や」は疑問の係助詞で、三句の「まし」と係り結びをなしている。
 三句「止みなまし」の「まし」は反実仮想の助動詞で、終わってしまっただろうか、の意である。ここで句切れとなる。
 四句「背くならひの」は、世を捨てるという習わしの、の意で、出家の道をいう。
 結句「なき世なりせば」の「せば」は反実仮想の仮定で、ない世であったならば、と倒置によって三句を受けて結ぶ。

ならひ:習わし、世の常
作者
西行
出典
山家集
前の歌
野に立てる枝なき木にも劣りけり 後の世知らぬ人の心は
次の歌
いづくにか身を隠さまし厭ひても 憂き世に深き山なかりせ