浅く出でし心の水やたたふらん
すみゆくままに深くなるかな
- 歌の意味
-
初めは浅く出た心の水が満ちてきたのであろうか。山に住み、心が澄んでゆくにつれて、深くなってゆくことだ。
- 鑑賞
-
雑歌 914
詞書「仁和寺御室にて、道心逐年深といふ事をよませさせ給ひけるに」
仁和寺の御室、すなわち仁和寺の門跡である法親王のもとで、「道心逐年深」の題で歌を詠ませられた折の作である。題は、仏道を求める心が年を追って深まる、という意である。初めは浅く出た心の水が満ちてきたのだろうか、山に住んで心が澄んでゆくにつれて深くなってゆく、と詠む。
初句「浅く出でし」は、初めは浅く湧き出た、の意で、六音の字余りである。
二句「心の水や」の「心の水」は、心を水にたとえた語で、題の「道心」に当たる。「や」は疑問の係助詞で、三句の「らん」と係り結びをなしている。
三句「たたふらん」の「たたふ」は、水が満ちる意である。ここで句切れとなる。
四句「すみゆくままに」の「すみ」は、山に住む意と、心の水が澄む意とを掛けた掛詞で、題の「逐年」に当たる。
結句「深くなるかな」は、深くなってゆくことだ、の意で、題の「深」に当たり、初句の「浅く」と対になっている。
すむ:住む意と、澄む意を掛ける
たたふ:水がいっぱいに満ちる
おむろ:仁和寺の門跡である法親王の称
- 作者
-
西行
- 出典
-
山家集
- 前の歌
-
住むことは所がらぞと言ひながら 高野はもののあはれなるかな
- 次の歌
-
嵐のみ時々窓におとづれて 明けぬる空の名残をぞ思ふ