慕はれし名残をこそは眺めつれ
たちかへりにし峰の秋霧
- 歌の意味
-
慕わしく思われたあなたの名残をこそ、じっと眺めていたのだ。あなたが帰っていったあとに立ちこめる、峰の秋霧として。
- 鑑賞
-
雑歌 1056
詞書「返し」
前歌の寂然の歌に対する西行の返歌である。名残が多いのはあなたばかりではない、私も、慕わしく思うあなたの名残として、あなたが立ち帰っていったあとに立ちこめる峰の秋霧をずっと眺めていたのだ、と応えている。
寂然の歌の結句「峰の秋霧」をそのまま結句に用い、秋霧を見送った側の目から詠み返している。去った者が残した名残を、残された者が霧として眺めるという、贈答の呼吸がよく表れた一首である。
初句「慕はれし」の「れ」は自発の助動詞「る」の連用形で、自然と慕わしく思われた、の意である。
二句「名残をこそは」の「こそ」は強意の係助詞で、三句の已然形「つれ」で結ぶ係り結びとなる。
三句「眺めつれ」は「こそ」の結びとして已然形で、じっと眺めていた、の意を表し、三句切れとなる。
四句「たちかへりにし」の「たち」は、霧が「立つ」意と、友が「立ち帰る」意を掛けた掛詞である。
結句「峰の秋霧」は、前歌の結句をそのまま受けた体言止めで、贈答の呼応を明らかにしている。
したはる:自然と慕わしく思われる
たちかへる:霧が「立つ」意と、人が「立ち帰る」意を掛ける
- 作者
-
西行
- 出典
-
山家集
- 前の歌
-
隔て来しその年月もあるものを 名残多かる峰の秋霧
- 次の歌
-
雪分けて深き山路にこもりなば 年かへりてや君に逢ふべき