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春としもなほ思はれぬ心かな
雨ふる年の心地のみして

歌の意味
春だとはやはり思われない心であることよ。雨が降り、古い年のままのような気持ちばかりがして。
鑑賞
雑歌 1060

詞書「年のうちに春立ちて、雨の降りければ」
 年内に立春を迎え、その日に雨が降ったので詠んだ一首である。暦の上では春になったけれども、どうしても春とは思えない、雨の降る中で、まだ古い年のままのような気持ちばかりがする、と詠む。
 前歌が年内立春に自然がいち早く春を告げたと詠んだのに対し、本歌は同じ年内立春の日に、雨のために春の実感が湧かないことを詠んでおり、二首は同じ主題を逆の側から捉えた対となっている。

 初句「春としも」の「し」「も」は強意の副助詞と係助詞で、春だとは、と強めている。
 二句「なほ思はれぬ」は、やはり思われない、の意で、「れ」は自発の助動詞、「ぬ」は打消の助動詞の連体形である。
 三句「心かな」の「かな」は詠嘆の終助詞で、三句切れとなる。
 四句「雨ふる年の」の「ふる」は、雨が「降る」意と、年が「古る」意を掛けた掛詞で、雨の降る、古い年の、と二重に読ませている。
 結句「心地のみして」は、気持ちばかりがして、の意で、春の実感の湧かない理由を倒置によって示している。

ふる:雨が「降る」意と、年が「古る」意を掛ける
作者
西行
出典
山家集
前の歌
霞めども年のうちはとわかね間に 春を告ぐなる山川の水
次の歌
年ははや月並かけて越えにけり むべ摘みはべし柴の若立ち