- 歌の意味
-
この山路こそは雪の下を流れる水もまだ解けていないだろうが、都の空はもう春めいていることだろう。
- 鑑賞
-
雑歌 1064
詞書「山深く住み侍りける、春立ちぬと聞きて」
山深く住んでいた折、立春を迎えたと聞いて詠んだ一首である。この山路では雪の下の水もまだ解けていないだろうが、都の空はもう春らしくなっていることだろう、と、山中と都とを対比して思いやっている。
春の訪れの遅い山中に身を置きながら、都の春を思い描く心には、遁世者の都への懐かしさもにじんでいる。前の第千六十二首が立春の日に吉野の山を思ったのとは逆に、ここでは山にいて都を思っている。
初句「山路こそ」の「こそ」は強意の係助詞で、三句の已然形「ざらめ」で結ぶ係り結びとなり、逆接で下の句に続く。
二句「雪の下水」は、積もった雪の下を流れる水の意である。
三句「解けざらめ」は「こそ」の結びとして已然形で、解けていないだろうが、の意を表す。
四句「都の空は」は、山路と対比して都の方を示している。
結句「春めきぬらん」の「らん」は現在推量の助動詞で、春めいていることだろう、と都の春を推し量っている。
したみづ:雪や氷の下を流れる水
はるめく:春らしくなる
- 作者
-
西行
- 出典
-
山家集
- 前の歌
-
いつしかも初春雨ぞ降りにける 野辺の若菜も生ひやしねらん
- 次の歌
-
雪分けて外山が谷の鶯は 麓の里に春や告ぐらん