花を見し昔の心あらためて
吉野の里に住まんとぞ思ふ
- 歌の意味
-
かつて花を見たあの昔の心を新たにして、吉野の里に住もうと思うのだ。
- 鑑賞
-
雑歌 1070
詞書「国々巡りまはりて、春帰りて、吉野の方へ参らんとしけるに、人の、このほどはいづくにか跡とむべきと申しければ」
諸国をめぐって春に帰り、吉野の方へ向かおうとしたとき、人から、このたびはどこに住むつもりかと尋ねられて答えた一首である。かつて吉野で花を見たころの心を改めて新たにし、吉野の里に住もうと思う、と答えている。
旅から帰った西行が、再び吉野の花のもとに身を置こうとする決意を述べている。「昔の心」は、花に心を奪われた若き日の思いであり、それを新たにするという表現に、生涯にわたる花への執心がうかがえる。
初句「花を見し」の「し」は過去の助動詞「き」の連体形で、かつて花を見た、の意である。
二句「昔の心」は、花に心を寄せた昔の心、の意である。
三句「あらためて」は、新たにして、改めて、の意である。
四句「吉野の里に」は、桜の名所吉野の里に、の意である。
結句「住まんとぞ思ふ」の「ぞ」は強意の係助詞で、連体形「思ふ」で結ぶ係り結びとなり、住もうと思う決意を強く示している。
あととむ:住みかを定める、留まる
- 作者
-
西行
- 出典
-
山家集
- 前の歌
-
月見れば風に桜の枝なえて 花よと告ぐる心地こそすれ
- 次の歌
-
思ひつつ花のくだもの摘みてけり 吉野の人のみやたてにして