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涙のみかきくらさるる旅なれや
さやかに見よと月は澄めども

歌の意味
涙ばかりで目の前が暗くなってしまう旅であるからだろうか。はっきりと見よとばかりに月は澄んでいるけれども。
鑑賞
雑歌 1087

詞書「駿河の国久能の山寺にて、月を見てよみける」
 駿河国の久能山の寺で月を見て詠んだ一首である。月ははっきりと見よとばかりに澄みわたっているのに、旅の悲しさに涙ばかりがあふれて目の前が暗くなってしまう、と詠む。
 澄んだ月と涙に曇る目とを対比し、旅の憂いの深さを表している。名月を前にしながらそれを見られないという逆説に、遠国の山寺で一人過ごす旅人の心細さがにじむ。

 初句「涙のみ」は、涙ばかりが、の意である。
 二句「かきくらさるる」は、目の前が真っ暗にされる、の意で、「るる」は受身または自発の助動詞である。
 三句「旅なれや」の「や」は疑問で、旅であるからだろうか、の意を表し、三句切れとなる。
 四句「さやかに見よと」は、はっきりと見よと、の意で、月の心を推し量っている。
 結句「月は澄めども」の「ども」は逆接で、月は澄んでいるけれども、と結び、倒置によって初句以下の嘆きと対比させている。

かきくらす:あたり一面を暗くする、涙で目を曇らせる
さやかなり:はっきりしている
作者
西行
出典
山家集
前の歌
心をば深き紅葉の色に染めて 別れて行くや散るになるらん
次の歌
身にもしみ物あはれなるけしきさへ あはれを責むる風の音かな