神無月時雨ふるやにすむ月は
曇らぬ影も頼まれぬかな
- 歌の意味
-
十月、時雨の降る古屋に住む月は、今は曇らぬ光であっても、あてにすることができないことよ。
- 鑑賞
-
雑歌 1113
詞書「古屋と申す宿にて」
大峰の古屋という宿で詠んだ一首である。十月、時雨の降る古屋に澄む月は、今は曇りのない光であっても、いつ時雨に曇らされるかわからないので、あてにできない、と詠む。
宿の名「古屋」に時雨が「降る」を掛け、さらに「すむ」に住むと澄むを掛けて、古びた宿に住みつくように澄む月を描いている。初句を「神無月」とする歌が三首続き、時雨と月をめぐる東屋、古屋の一連をなしている。
初句「神無月」は陰暦十月の異称で、前の二首と同じ初句を重ねている。
二句「時雨ふるやに」の「ふる」は、時雨が「降る」意と、宿の名「古屋」の「古」とを掛けた掛詞である。
三句「すむ月は」の「すむ」は、古屋に「住む」意と、月が「澄む」意を掛けた掛詞である。
四句「曇らぬ影も」は、今は曇っていない月の光も、の意である。
結句「頼まれぬかな」の「れ」は可能の助動詞、「ぬ」は打消で、あてにすることができない、と詠嘆で結んでいる。
ふるや:時雨が「降る」意と、古びた家「古屋」を掛ける
すむ:「住む」と「澄む」を掛ける
- 作者
-
西行
- 出典
-
山家集
- 前の歌
-
神無月谷にぞ雲は時雨るめる 月澄む峰は秋に変はらで
- 次の歌
-
あはれとて花見し峰に名をとめて 紅葉ぞ今日は共にふりける