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屏風にや心を立てて思ひけん
行者は帰り稚児は泊まりぬ

歌の意味
屏風を立てるように、屏風立ての難所に心を張りつめて思い悩んだのだろうか。行者は引き返し、稚児はとどまってしまった。
鑑賞
雑歌 1117

詞書「行者還り、稚児の泊り、続きたる宿なり、春の山伏は屏風立てと申す所を平らかに過ぎんことを固く思ひて、行者、稚児の泊りにて、思ひわづらふなるべし」
 大峰の行者還り、稚児の泊りという続いた宿の名を詠み込んだ一首である。春の山伏たちは、屏風立てという難所を無事に越えることを強く思い詰めて、行者還り、稚児の泊りの宿で思い悩むのであろう、という詞書を受け、屏風立てに心を張りつめて思い悩んだのか、行者は帰り、稚児は泊まってしまった、と、地名を人の行動に見立てて興じている。
 「屏風立て」「行者還り」「稚児の泊り」という三つの地名を、難所を前にためらう人々の姿として一首にまとめた、ユーモアのある歌である。厳しい修行の道中にも、こうした遊び心が見られる。

 初句「屏風にや」は、屏風立てという難所に、の意で、「や」は疑問の係助詞で、三句の連体形「けん」で結ぶ係り結びとなる。
 二句「心を立てて」は、心を張りつめて、の意で、屏風を「立てる」ことと地名の「屏風立て」とを重ねている。
 三句「思ひけん」の「けん」は過去推量の助動詞で、思い悩んだのだろうか、の意を表し、三句切れとなる。
 四句「行者は帰り」は、修行者は引き返し、の意で、地名「行者還り」を詠み込んでいる。
 結句「稚児は泊まりぬ」は、稚児はとどまってしまった、の意で、地名「稚児の泊り」を詠み込んでいる。

やまぶし:山中で修行する修験者
ちご:寺で召し使われた少年
作者
西行
出典
山家集
前の歌
笹深み霧越す岫を朝立ちて なびきわづらふ蟻の門渡り
次の歌
身に積もる言葉の罪もあらはれて 心澄みぬる三重の滝