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たぐひなき思ひいではの桜かな
薄紅の花のにほひは

歌の意味
比べるもののない思い出となる、出羽の国の桜であることよ。その薄紅の花の美しい色つやは。
鑑賞
雑歌 1132

詞書「又の年の三月に出羽国に越えて、滝の山と申す山寺に侍りけるに、桜の常よりも薄紅の色濃き花にて、並み立てりけるを、寺の人々も見興じければ」
 翌年の三月に出羽国へ越え、滝の山という山寺に滞在していたとき、いつもの桜よりも薄紅の色の濃い花が並んで咲いていて、寺の人々も興じて見ていたので詠んだ一首である。比べようのない思い出となる出羽の桜であることよ、その薄紅の花の色の美しさは、と詠む。
 「思ひ出は」と「出羽」を掛けた掛詞が一首の中心で、生涯の思い出と旅の地名とを一つに結んでいる。吉野の桜を愛した西行が、遠い出羽の山寺で見た薄紅の桜に心を奪われた感動が、倒置によって鮮やかに表されている。

 初句「たぐひなき」は、比べるもののない、の意である。
 二句「思ひいではの」の「いでは」は、「思ひ出は」と国名の「出羽」を掛けた掛詞である。
 三句「桜かな」の「かな」は詠嘆の終助詞で、三句切れとなる。
 四句「薄紅の」は、淡い紅色の、の意で、詞書の「薄紅の色濃き花」を受けている。
 結句「花のにほひは」の「にほひ」は、花の色つやの美しさを言い、倒置によって初句以下の感動の理由を示している。

いでは:「思ひ出は」と国名「出羽」を掛ける
にほひ:色の美しさ、色つや
作者
西行
出典
山家集
前の歌
とりわきて心も凍みて冴えぞわたる 衣川見にきたる今日しも
次の歌
都近き小野大原を思ひ出づる 柴の煙のあはれなるかな