古典和歌stream

山深み苔の筵の上にゐて
何心なく鳴く猿かな

歌の意味
山が深いので、苔の筵の上に座って、何の屈託もなく鳴いている猿であることよ。
鑑賞
雑歌 1201

詞書は前の歌に続き「入道寂然、大原に住み侍りけるに、高野より遣はしける」
 十首の連作の四首目である。山が深いので、苔の筵の上に座って、何の思いもなさそうに鳴いている猿であることよ、と詠む。
 苔を筵に見立て、そこに座る猿を人のように描いている。何の屈託もなく鳴く猿の姿は、物思いの多い人間との対比を含み、山中の素朴な生き物への親しみと、無心へのあこがれとがうかがえる。猿の声は漢詩では旅愁を誘う悲しいものとされるが、ここではむしろ無心のものとして詠まれている。

 初句「山深み」は、山が深いので、の意で、連作に共通する初句である。
 二句「苔の筵の」は、一面の苔を筵に見立てた表現である。
 三句「上にゐて」は、その上に座って、の意である。
 四句「何心なく」は、何の思いもなく、無心に、の意で、「なく」の同音の繰り返しが結句の「鳴く」を導いている。
 結句「鳴く猿かな」の「ましら」は猿の古称、「かな」は詠嘆の終助詞である。

ましら:猿の古称
こけのむしろ:一面の苔を筵に見立てた語
作者
西行
出典
山家集
前の歌
山深み窓のつれづれ訪ふものは 色づき初むる櫨の立ち枝
次の歌
山深み岩に垂るる水溜めん かつがつ落つる橡拾ふほど