山深み岩に垂るる水溜めん
かつがつ落つる橡拾ふほど
- 歌の意味
-
山が深いので、岩から滴り落ちる水を溜めておこう。ぽつりぽつりと落ちる橡の実を拾い集める間に。
- 鑑賞
-
雑歌 1202
詞書は前の歌に続き「入道寂然、大原に住み侍りけるに、高野より遣はしける」
十首の連作の五首目である。山が深いので、岩から滴る水を溜めておこう、少しずつ落ちてくる橡の実を拾っている間に、と詠む。
橡の実はあく抜きをして食用にするもので、水に晒す必要がある。岩の滴りを溜める間に橡を拾うという、山中の質素な暮らしの具体的な営みを描いている。寂然の第千二百十四首では、山風に落ちる笹栗が詠まれ、木の実の落ちる山里の秋が互いに響き合っている。
初句「山深み」は、山が深いので、の意で、連作に共通する初句である。
二句「岩に垂るる」は、岩から滴り落ちる、の意である。
三句「水溜めん」の「ん」は意志の助動詞で、水を溜めておこう、の意を表し、三句切れとなる。
四句「かつがつ落つる」の「かつがつ」は、少しずつ、ぽつりぽつりと、の意である。
結句「橡拾ふほど」の「橡」はトチノキの実で、拾う間に、の意を表し、倒置によって水を溜める時間を示している。
とち:トチノキの実。あくを抜いて食用にした
かつがつ:少しずつ、わずかずつ
- 作者
-
西行
- 出典
-
山家集
- 前の歌
-
山深み苔の筵の上にゐて 何心なく鳴く猿かな
- 次の歌
-
山深み気近き鳥の音はせで もの恐ろしき梟の声