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なき名こそ飾磨の市にたちにけれ
まだ逢ひ初めぬ恋するものを

歌の意味
根も葉もない噂ばかりが、飾磨の市が立つように立ってしまったことだ。まだ逢いはじめてもいない恋をしているのに。
鑑賞
雑歌 1242

詞書は前の歌に続き「恋百十首」
 まだ一度も逢っていない恋をしているだけなのに、根も葉もない浮名ばかりが、人の集まる飾磨の市のように立ってしまった、と嘆いている。
 飾磨の市は播磨国の市で、人が多く集まる所として知られた。市が「立つ」ことと、噂の名が「立つ」こととを掛け、実のない恋に噂だけが広まる理不尽さを詠んでいる。

 初句「なき名こそ」の「なき名」は、事実無根の評判、浮名の意で、「こそ」は強意の係助詞である。
 二句「飾磨の市に」は、播磨国飾磨の市に、の意である。
 三句「たちにけれ」の「たち」は、市が「立つ」意と、名が「立つ」意を掛けた掛詞で、「こそ」の結びとして已然形をとり、三句切れとなる。
 四句「まだ逢ひ初めぬ」は、まだ逢いはじめていない、の意である。
 結句「恋するものを」の「ものを」は逆接で、恋をしているのに、の意を表す。

なきな:事実無根の評判
たつ:市が「立つ」意と、噂の名が「立つ」意を掛ける
作者
西行
出典
山家集
前の歌
思ひあまり言ひ出でしこそ池水の 深き心のほどは知られめ
次の歌
包めども涙の色にあらはれて 忍ぶ思ひは袖よりも散る