古典和歌stream

忘られんことをばかねて思ひにき
何驚かす涙なるらん

歌の意味
忘れられるであろうことは、前々から覚悟していた。それなのに、どうして今さら私を驚かすように流れる涙なのだろう。
鑑賞
雑歌 1278

詞書は前の歌に続き「恋百十首」
 あの人に忘れられることは前々から覚悟していたのに、どうして今さら驚いたように涙が流れるのだろう、と詠む。
 頭では覚悟していても、実際に忘れられると心は耐えきれず涙があふれるという、理性と感情とのずれを詠んでいる。恋が終わりに向かう段階の悲しみが表れている。

 初句「忘られん」の「れ」は受身の助動詞、「ん」は推量の助動詞で、忘れられるであろう、の意である。
 二句「ことをばかねて」の「かねて」は、前もって、の意である。
 三句「思ひにき」の「にき」は完了と過去で、覚悟していた、の意を表し、三句切れとなる。
 四句「何驚かす」は、どうして驚かすのか、の意である。
 結句「涙なるらん」の「らん」は原因推量の助動詞で、涙なのだろう、と結ぶ。

かねて:前もって、以前から
作者
西行
出典
山家集
前の歌
いかにせん憂き名をば世に立て果てて 思ひも知らぬ人の心を
次の歌
訪はれぬも訪はぬ心のつれなさも 憂きは変はらぬ心地こそすれ