何事につけてか世をば厭はまし
憂かりし人ぞ今日は嬉しき
- 歌の意味
-
何事にかこつけて、この世を厭えばよいのだろう。つれなかったあの人が、今日は嬉しく思われるのだから。
- 鑑賞
-
雑歌 1349
詞書は前の歌に続き「恋百十首」
いったい何事にかこつけてこの世を厭い捨てたらよいのだろう、これまでつれなかったあの人が、今日は嬉しい人となったのだから、と詠む。
つれなかった恋人が心を開いてくれた喜びのために、この世を厭う理由がなくなってしまったという心である。前歌の、世を厭いながらも恋に引かれる心をさらに進め、恋の喜びによって遁世の思いさえ揺らぐさまを詠んでいる。
初句「何事に」は、何事に、の意である。
二句「つけてか世をば」の「か」は疑問の係助詞で、かこつけて世を、の意である。
三句「厭はまし」の「まし」はためらいの意志を表し、厭えばよいだろう、の意で、三句切れとなる。
四句「憂かりし人ぞ」は、つれなかった人が、の意で、「ぞ」は強意の係助詞として連体形「嬉しき」と係り結びをなす。
結句「今日は嬉しき」は、今日は嬉しい、の意で、倒置によって世を厭う理由のなくなったことを示している。
いとふ:嫌う、世を捨てる
- 作者
-
西行
- 出典
-
山家集
- 前の歌
-
とにかくに厭はまほしき世なれども 君がすむにも引かれぬるかな
- 次の歌
-
逢ふと見しその夜のりのさめてあれな 長き眠りは憂かるべけれど