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立て初むる網捕る浦の初竿は
罪の中にもすぐれたるかな

歌の意味
最初に立て始める、網を捕る浦の初竿は、殺生の罪の中でもとりわけ重いものであることよ。
鑑賞
雑歌 1372

詞書「備前国に、小島と申す島に渡りたりけるに、網と申す物捕る所は、おのおの我々占めて、長き竿に袋をつけて、立て渡すなり、その竿の立て始めをば、一の竿とぞ名付けたる、中に年高き海人の立て初むるなり、立つるとて申すなる言葉聞き侍りしこそ、涙こぼれて、申すばかりなく覚えて、よみける」
 備前国の児島という島に渡ったとき、あみという小さな海の生き物を捕る所では、漁師たちがそれぞれ場所を占めて、長い竿に袋をつけて立て並べていた。その竿の立て始めを一の竿と名付け、漁師の中でも年長の者が立て始めるのであった。竿を立てるときに唱える言葉を聞いて、涙がこぼれ、言いようもなく心を打たれて詠んだ一首である。最初に立てる初竿は、殺生の罪の中でもとりわけ重いものだ、と詠む。
 生きるために殺生を重ねる漁師の営みに、仏道に生きる西行は深い哀れを覚えている。晴れがましい初竿の儀式を、かえって罪の始まりとして捉え、生きる者が負う罪の重さを見つめている。以下、瀬戸内の漁師の営みをめぐる歌が続く。

 初句「立て初むる」は、最初に立て始める、の意である。
 二句「網捕る浦の」の「網」は、あみと呼ばれる小さな海の生き物で、それを捕る浦の、の意である。
 三句「初竿は」は、最初に立てる竿は、の意で、詞書の「一の竿」を指す。
 四句「罪の中にも」は、殺生の罪の中でも、の意である。
 結句「すぐれたるかな」は、とりわけ重いものであることよ、の意で、「すぐる」は際立っている意である。

あみ:エビに似た小さな海の生き物
はつさを:漁の初めに立てる竿
作者
西行
出典
山家集
前の歌
筆の山にかき登りても見つるかな 苔の下なる岩のけしきを
次の歌
下り立ちて浦田に拾ふ海人の子は つみよりつみを習ふなりけり