古典和歌stream

敷き渡す月の氷を疑ひて
ひびの手まはる味の群鳥

歌の意味
一面に敷き広げた月の光の氷を本物の氷かと疑って、ひびの柵の手を回り飛ぶ味鴨の群れであることよ。
鑑賞
雑歌 1404

詞書「讃岐の国へまかりて、三野の津と申す津に着きて、月明かくて、ひびの手も通はぬほどに、遠く見え渡りたりけるに、水鳥のひびの手につきて飛び渡りけるを」
 讃岐の国へ下って、三野の津という港に着いたとき、月が明るく、海に立て並べたひびの柵の手も届かないほど遠くまで見渡せた。水鳥がひびの柵に沿って飛び渡ってゆくのを見て詠んだ一首である。一面に敷き広げた月光の海面を氷かと疑って、ひびの柵の周りを飛び回る味鴨の群れであることよ、と詠む。
 月光に白く照らされた海面を氷に見立てる趣向は、本巻の第千三百五十六首とも通じる。鳥までもが月光の海を氷と見誤るという、見立てを鳥の側から描いた機知の歌である。

 初句「敷き渡す」は、一面に敷き広げた、の意である。
 二句「月の氷を」は、月光に照らされて氷のように見える海面を、の意である。
 三句「疑ひて」は、本物の氷かと疑って、の意である。
 四句「ひびの手まはる」の「ひび」は、海に立て並べた竹や木の柵で、その周りを回る、の意である。
 結句「味の群鳥」の「味」は、味鴨と呼ばれる水鳥で、体言止めとなっている。

ひび:海中に立て並べた竹や木の柵、篊
あぢ:味鴨、トモエガモ
作者
西行
出典
山家集
前の歌
立ちのぼる月のあたりに雲消えて 光重ぬる七越の峰
次の歌
いかで我心の雲に塵据ゑで 見るかひありて月を眺めん