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何事かこの世に経たる思ひ出を
問へかし人に月を教へん

歌の意味
この世に生きてきた思い出は何なのかと、問うてほしいものだ。そうしたら人に、それは月だと教えよう。
鑑賞
百首 1479

詞書は前の歌に続き「月十首」
 月十首の七首目である。この世を生きてきた思い出は何かと、誰か問うてくれればよい、そうしたら月だと教えよう、と詠む。
 生涯を振り返ってなお心に残るものは月である、という月への深い愛着を、問答の形で表した一首である。月を眺めることを生涯の喜びとした作者の心がうかがえる。

 初句「何事か」は、何であるか、の意で、思い出の内容を問う。
 二句「この世に経たる」の「経」は、時を過ごす、生きる意で、この世に生きてきた、の意である。
 三句「思ひ出を」は、生涯の思い出を、の意である。
 四句「問へかし人に」の「かし」は念を押す終助詞で、問うてほしいものだ、の意を表し、四句の途中で切れる。
 結句「月を教へん」の「ん」は意志で、それは月だと教えよう、の意である。

ふ:時を過ごす、生きる
とふ:尋ねる、問う
作者
西行
出典
山家集
前の歌
おほかたの秋をば月に包ませて 吹きほころばす風の音かな
次の歌
思ひ知るを世には隈なき影ならず 我が目に曇る月の光は