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憂き世とも思ひ通さじ押し返し
月の澄みける久方の空

歌の意味
この世を憂き世だとばかり思い通すことはするまい。思い返してみれば、月がこのように澄んでいる大空なのだから。
鑑賞
百首 1481

詞書は前の歌に続き「月十首」
 月十首の九首目である。この世をつらい世だとばかり思い続けるのはやめよう、思い返せば、これほど月の澄んでいる空がある世なのだから、と詠む。
 つらいことの多い世であっても、澄んだ月を見ればこの世を厭うばかりではいられない、という心の転換を詠んでいる。前歌が涙に曇る月を詠んだのに対し、本歌は澄みきった月によって心が晴れていく様子を描き、対をなしている。

 初句「憂き世とも」は、つらいこの世だとも、の意である。
 二句「思ひ通さじ」の「じ」は打消の意志で、思い通すまい、の意を表し、二句切れとなる。
 三句「押し返し」は、思い返して、反対に、の意である。
 四句「月の澄みける」の「ける」は詠嘆で、月が澄んでいることだ、の意である。
 結句「久方の空」の「久方の」は「空」にかかる枕詞で、体言止めとなっている。

うきよ:つらいことの多いこの世
おしかへす:思い返す、反対に考える
作者
西行
出典
山家集
前の歌
思ひ知るを世には隈なき影ならず 我が目に曇る月の光は
次の歌
月の夜やがて友とをなりていづくにも 人知らざらん住みか教へよ