- 歌の意味
-
故郷の花の美しさのほうが勝っているのだろうか。落ち着いた心もなく、急いで北へ帰っていく雁であることよ。
- 鑑賞
-
巻第一 春歌 33
花盛りの都を見捨てて急ぐように北へ帰っていく雁を見て、雁の故郷の花のほうが美しいのだろうかと思いやった歌である。花を見ずに去る雁の姿に、作者の花への愛着が逆に照らし出されている。
作者は贈左大臣長実母とされる。ここから帰雁の歌が二首続く。
初句「古里の」は、ここでは雁の故郷である北の国を指す。
二句「花の匂ひや」の「匂ひ」は花の美しい色つやで、係助詞「や」が疑問を表す。
三句「まさるらむ」は、二句の「や」を受けて推量の「らむ」の連体形で結ぶ係り結びである。ここで句切れとなる。
四句「静心なく」は、落ち着いた心もなくの意で、『古今集』の紀友則の歌「しづ心なく花の散るらむ」を思わせる語である。
結句「帰る雁かな」は、春に北へ帰る雁を詠嘆の「かな」で結ぶ。次歌の結句「帰る雁がね」と対をなす。
しづごころ:落ち着いた心
かへるかり:春に北の国へ帰っていく雁
- 出典
-
詞花和歌集
- 前の歌
-
春ごとに見る花なれど今年より 咲き始めたる心地こそすれ
- 次の歌
-
なかなかに散るを見じとや思ふらむ 花の盛りに帰る雁がね