今日よりはたつ夏衣薄くとも
あつしとのみや思ひわたらむ
- 歌の意味
-
今日からは夏が立ち、裁って仕立てた夏衣に着替える。その衣は薄くても、ただ「あつし」、つまり暑い、厚いとばかり思い続けることになるのだろうか。
- 鑑賞
-
巻第二 夏歌 51
夏の巻の巻頭歌である。初句「今日よりは」は四月一日の更衣の日を思わせ、夏の始まりを告げている。薄い夏衣を着ながらも「あつし」と感じるという逆説を、掛詞を重ねて軽やかに詠んだ機知の歌である。
巻第一の巻末の第五十首が春の名残を惜しむ歌であったのを受け、季節が夏へ移ったことを衣替えで示している。また本巻の巻末の第八十一首は秋を先取りする露を詠んでおり、夏衣に始まり秋の露に終わる巻頭と巻末の呼応が見られる。
初句「今日よりは」は、季節の改まる日を起点として示す言い方である。
二句「たつ夏衣」の「たつ」は、夏が「立つ」と衣を「裁つ」の掛詞である。「衣」と「裁つ」は縁語でもある。
三句「薄くとも」は逆接の仮定で、衣の「薄さ」を四句の「あつし」と対にしている。
四句「あつしとのみや」の「あつし」は「暑し」と「厚し」の掛詞である。薄いのに厚いという言葉の遊びが一首の眼目である。係助詞「や」は疑問を表す。
結句「思ひわたらむ」の「わたる」は、ある状態がずっと続く意である。推量の助動詞「む」は係助詞「や」の結びとして連体形になっている。
たつ:夏が立つ(始まる)意と、衣を裁つ意を掛ける
あつし:暑しと厚しを掛ける
おもひわたる:ずっと思い続ける
- 作者
-
増基
- 出典
-
詞花和歌集
- 前の歌
-
惜しむとて今宵書き置く言の葉や あやなく春の形見なるべき
- 次の歌
-
雪の色を盗みて咲ける卯の花は 冴えてや人に疑はるらむ