昆陽の池に生ふるあやめの長き根は
引く白糸の心地こそすれ
- 歌の意味
-
昆陽の池に生えている菖蒲の長い根は、引き伸ばした白糸のような感じがする。
- 鑑賞
-
巻第二 夏歌 63
五月五日の端午の節句に用いる菖蒲の根を詠んだ歌である。昆陽の池から引き抜いた菖蒲の長く白い根を、繰り出す白糸に見立てている。節句には菖蒲の根の長さを競う遊びもあり、その長さをたたえる趣である。
ほととぎすの歌群から五月の景物である菖蒲へと移る。第六十一首と同じ結句「心地こそすれ」を持ち、次歌以降の五月雨の歌群へとつながる位置にある。
初句「昆陽の池に」は字余りで、摂津国の歌枕である昆陽の池を示す。
二句「生ふるあやめの」は、池に生える菖蒲を主題として提示する。
三句「長き根は」は、菖蒲の根の長さに焦点を当てる。
四句「引く白糸の」は、根を「引く」ことと糸を「引く」ことが重なる見立てである。第六十六首の「夏引きの糸」とも糸の主題で響き合う。
結句「心地こそすれ」は、係助詞「こそ」と已然形「すれ」の係り結びである。第六十一首の結句と同じ句である。
こやのいけ:摂津国の昆陽池。今の兵庫県伊丹市にある歌枕
あやめ:ショウブ。端午の節句に軒に葺き、根の長さを競った
- 作者
-
待賢門院堀河
- 出典
-
詞花和歌集
- 前の歌
-
鳴きつとも誰にか言はむほととぎす 影より外に人しなければ
- 次の歌
-
夜もすがらたたく水鶏は天の戸を 開けてのちこそ音せざりけれ