古典和歌stream

宿近く花橘は掘り植ゑじ
昔を偲ぶつまとなりけり

歌の意味
家の近くに花橘は掘って植えまい。昔を偲ぶきっかけとなってしまうのだから。
鑑賞
巻第二 夏歌 70

 花橘の香りが昔を思い出させるという和歌の伝統をふまえ、だからこそ家の近くには植えまいと逆説的に決意した歌である。思い出すことのつらさがにじむ。
 前歌の第六十九首が花橘の香の行方を思いやったのに対し、本歌は香を遠ざけようとし、花橘をめぐって二首が反転した構図をなしている。

 初句「宿近く」は、自分の住まいの近くをいう。
 二句「花橘は」は、昔を思い出させる花として提示される。
 三句「掘り植ゑじ」の「じ」は打消の意志で、ここで句切れとなる。
 四句「昔を偲ぶ」は、『古今和歌集』の花橘の歌以来の伝統をふまえている。
 結句「つまとなりけり」の「つま」は、きっかけ、手がかりの意である。「けり」は気づきの詠嘆で、三句の理由を後から述べる形となっている。

つま:きっかけ、手がかり
ほりうう:掘って植える
作者
花山院
出典
詞花和歌集
前の歌
五月闇花橘に吹く風は 誰が里までか匂ひゆくらむ
次の歌
薄く濃く垣穂に匂ふ撫子の 花の色にぞ露も置きける