鳴く虫のひとつ声にも聞こえぬは
心々にものや悲しき
- 歌の意味
-
鳴いている虫の声がひとつの声には聞こえないのは、虫それぞれが、それぞれの心で悲しんでいるからだろうか。
- 鑑賞
-
巻第三 秋歌 120
詞書は前の歌に続き「題しらず」
和泉式部の歌である。さまざまな虫の声が入り混じって聞こえるのは、それぞれの虫がそれぞれの悲しみを抱いて鳴いているからだろうかと思いやる。
虫の声の多様さを、心の多様さとしてとらえた点に、人の心の機微に通じた和泉式部らしい感受性がうかがえる。
初句「鳴く虫の」は、鳴いている虫のという意で、前歌の第百十九首に続いて虫の声を詠む。
二句「ひとつ声にも」は、ひとつの声にもという意である。
三句「聞こえぬは」は、聞こえないのはという意で、理由を問う形へつながる。
四句「心々に」は、それぞれの心にという意で、虫ごとに異なる思いを示す。
結句「ものや悲しき」は、もの悲しいのだろうかという疑問で、係助詞「や」を連体形「悲しき」で結ぶ。
- 作者
-
和泉式部
- 出典
-
詞花和歌集
- 前の歌
-
八重葎茂れる宿は夜もすがら 虫の音聞くぞ取り所なる
- 次の歌
-
古里に変はらざりけり鈴虫の なるみの野辺の夕暮の声