今さらに己がすみかを立たじとて
木の葉の下にをしぞ鳴くなる
- 歌の意味
-
今さら自分の住みかを飛び立って離れはしまいとして、水面を覆う木の葉の下で、おしどりが鳴いているようだ。
- 鑑賞
-
巻第四 冬歌 145
詞書「落葉埋水といふ事をよめる」
「落葉埋水」は落葉が水面を埋め尽くすという題で、池の水面が落葉に覆われた中、おしどりが住みなれた水辺を離れずに鳴いているさまを詠む。姿は木の葉に隠れて見えず、声だけが聞こえるという情景に、題の「埋水」を生かしている。
初句「今さらに」 今になって、の意。落葉で水面が埋まった今になっても、という気持ちを込める。
二句「己がすみかを」 自分の住んでいる場所を。おしどりの住む水辺を指す。
三句「立たじとて」 「じ」は打消意志の助動詞。飛び立って離れはしまいと、おしどりの心を推し量る擬人法である。
四句「木の葉の下に」 水面を覆った落葉の下に。題の「埋水」を表し、前歌の積もった紅葉葉が水辺に移る。
結句「をしぞ鳴くなる」 「ぞ」は係助詞、「なる」は推定「なり」の連体形で係り結び。姿は見えず声で知る趣で、前歌の音による把握を受け継ぐ。
をし:オシドリ。雌雄が仲むつまじいとされる水鳥
すみか:住んでいる所
- 出典
-
詞花和歌集
- 前の歌
-
山深み落ちて積もれる紅葉葉の 乾ける上に時雨降るなり
- 次の歌
-
風吹けばならの裏葉のそよそよと 言ひ合はせつついづち散るらむ