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思ひかね今日立てそむる錦木の
千束も待たで逢ふよしもがな

歌の意味
思いをこらえきれず、今日はじめて立てる錦木が千本になるのも待たずに、あの人に逢う手立てがあればよいのに。
鑑賞
巻第七 恋歌上 190

 陸奥の錦木の風習を踏まえた一首である。男が思う女の家の門に錦木を立て、女が受け入れるならそれを取り入れ、そうでなければ千本に至るまで立て続けたという。思いをこらえきれずに初めて錦木を立てたその日から、千束を待たずに逢いたいと願う、恋の始まりの性急な心を詠んでいる。

 初句「思ひかね」は、思いに堪えきれずという意で、恋心がついに行動にあふれ出たことを示す。
 二句「今日立てそむる」は、今日はじめて立てるという意で、「そむ」は動作のし始めを表す。本巻の第二百十四首は千束が朽ちてもなお錦木を立てようとする歌で、恋の始まりと長い年月の果てとを、同じ錦木で別の尺度から詠み分けている。
 三句「錦木の」は、五色に彩った木の札で、陸奥の求婚の風習に用いられたものである。
 四句「千束も待たで」は、千本に達するのも待たずにという意で、錦木を千束まで立てる習わしを踏まえる。
 結句「逢ふよしもがな」は、願望の終助詞「もがな」で、逢う手立てがあればよいのにと結ぶ。

にしきぎ:陸奥の風習で、求婚の男が女の家の門に立てた彩色の木
ちつか:千本の束。錦木を千本まで立てる習わしをいう
よし:手段、方法
作者
大江匡房
出典
詞花和歌集
前の歌
かくとだに言はではかなく恋ひ死なば やがて知られぬ身とやなりなむ
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谷川の岩間を分けて行く水の 音にのみやは聞かむと思ひし