恋ひわびて独り伏せ屋に夜もすがら
落つる涙やおとなしの滝
- 歌の意味
-
恋に思い悩んで、ひとりみすぼらしい小屋で一晩中流れ落ちる涙は、音を立てずに落ちる音無の滝なのだろうか。
- 鑑賞
-
巻第七 恋歌上 232
恋に苦しみ、粗末な家でひとり夜通し流す涙を、音無の滝にたとえた一首である。声を立てず人知れず流れる涙を、名に「音無し」をもつ滝で表した機知の中に、忍び泣く恋の孤独がにじんでいる。
初句「恋ひわびて」は、恋に思い悩んでという意で、恋の苦しみの深さを示す。
二句「独り伏せ屋に」は、屋根の低い粗末な家でひとり寝る侘しさを表す。
三句「夜もすがら」は、一晩中という意で、涙が絶え間なく流れ続けることを示す。
四句「落つる涙や」は、係助詞「や」で疑問を示す。巻頭の第百八十七首が恋の火の燃えるさまで始まったのに対し、巻末では恋の涙を水の流れとして結び、火と水が対照をなして巻を閉じている。
結句「おとなしの滝」は、歌枕の音無の滝と、音がしない意の「音無し」とを掛けた体言止めで、忍び泣く涙を滝にたとえて結ぶ。
ふせや:屋根の低い粗末な家
おとなしのたき:紀伊国などにあったとされる歌枕の滝の名と、音がしない意の「音無し」を掛ける
- 出典
-
詞花和歌集
- 前の歌
-
ほどもなく暮るると思ひし冬の日の 心もとなき折もありけり
- 次の歌
-
君を我が思ふ心は大原や いつしかとのみすみやかれつつ