わが恋はあひそめてこそまさりけれ
飾磨のかちの色ならねども
- 歌の意味
-
わたしの恋は、逢いはじめてからこそいっそう深まったことだ。藍を重ねて染めるほど色が濃くなる飾磨の褐の色ではないけれども。
- 鑑賞
-
巻第八 恋歌下 234
逢う前よりも、逢いはじめてからのほうが恋心はいっそう募ると詠む一首である。藍を重ねて染めるほど色が深まる飾磨の褐染めを引き合いに出し、「逢ひ初め」に「藍染め」を掛けて、深まる恋心を染め色の濃さにたとえている。
巻第七の第二百三十首も飾磨の褐染めを序として恋の激しさを詠んでおり、恋歌上の巻末近くと恋歌下の巻頭近くとが、同じ名産で結ばれている。
初句「わが恋は」は、係助詞「は」で自分の恋を主題として示す。
二句「あひそめてこそ」は、恋人と「逢ひ初め」る意と、藍で「染め」る意とを掛け、係助詞「こそ」で逢ってからのちを強く取り立てる。
三句「まさりけれ」は、「こそ」を受けて詠嘆の「けり」の已然形で結ぶ係り結びの三句切れで、恋心がいっそう募ったと気づく思いを表す。
四句「飾磨のかちの」は、播磨国の飾磨で染めた濃い紺色の褐をいい、藍を重ねて染めることから二句の「藍染め」と縁語をなす。
結句「色ならねども」は、逆接の「ども」で、褐の色ではないけれどもと添え、恋の深まりを染め色の濃さに重ねて結ぶ。
あひそむ:恋人と逢いはじめる意の「逢ひ初む」と、藍で染める意の「藍染む」を掛ける
しかま:播磨国の地名。濃い紺色の褐染めで知られた
かち:藍を重ねて染めた濃い紺色の染め色
- 出典
-
詞花和歌集
- 前の歌
-
君を我が思ふ心は大原や いつしかとのみすみやかれつつ
- 次の歌
-
夜を深み帰りし空もなかりしを いづくより置く露に濡れけむ