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涙さへ出でにし方を眺めつつ
心にもあらぬ月を見しかな

歌の意味
涙までもこぼれ出て、あの人が出ていった方角をぼんやり眺めながら、心にもなく月を見てしまったことだ。
鑑賞
巻第八 恋歌下 250

 去っていった人の方角を涙ながらに眺めているうちに、見るつもりもなかった月を見てしまったと詠む一首である。月を眺めていたのではなく、恋人の去った方を見ていたのだという心のありかを、「心にもあらぬ月」という言い方で鮮やかに表している。

 初句「涙さへ」は、副助詞「さへ」で、人ばかりか涙までもという意を添える。
 二句「出でにし方を」は、完了の「ぬ」と過去の「き」で、涙が出る意と、人が出ていった方角とを重ねている。
 三句「眺めつつ」は、反復継続の「つつ」で、物思いにふけりながら見やる様子を表す。
 四句「心にもあらぬ」は、自分の本意ではないという意で、月を見るつもりはなかったことを示す。
 結句「月を見しかな」は、過去の「き」の連体形と詠嘆の「かな」で、月を見てしまったことだと結ぶ。

ながむ:物思いにふけりながらぼんやり見やる
作者
和泉式部
出典
詞花和歌集
前の歌
夕暮れにもの思ふことはまさるやと 我ならざらむ人に問はばや
次の歌
つらしとて我さへ人を忘れなば さりとて仲の絶えやはつべき