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さりとては誰にか言はむ今はただ
人を忘るる心教へよ

歌の意味
そうかといって、ほかの誰に言えようか。今はただ、人を忘れる心をあなたが教えてほしい。
鑑賞
巻第八 恋歌下 267

 つれない相手に向かい、ほかに頼める人もいないのだから、せめて人を忘れる心を教えてほしいと訴える一首である。自分を忘れた相手こそ忘れ方を知っているはずだという皮肉が、恨みとともにこめられている。

 初句「さりとては」は、そうかといってという意で、思いを受けて転じる。
 二句「誰にか言はむ」は、係助詞「か」と推量の「む」の連体形による係り結びで、ほかの誰に言えようかという反語の二句切れである。
 三句「今はただ」は、今となってはただという意で、願いを一つに絞る。
 四句「人を忘るる」は、前歌の第二百六十六首と同じ句で、前歌が自ら忘れ方を知るべきだとしたのに対し、ここではそれを相手に教えてほしいと求めている。
 結句「心教へよ」は、命令形「教へよ」で、忘れる心を教えてほしいと訴えて結ぶ。

をしふ:教える。手ほどきをする
作者
よみ人しらず
出典
詞花和歌集
前の歌
今よりは訪へとも言はじ我ぞただ 人を忘るることを知るべき
次の歌
まだ知らぬことをばいかが教ふべき 人を忘るる身にしあらねば