古典和歌stream

幾かへりつらしと人をみくまのの
うらめしながら恋しかるらむ

歌の意味
いったい何度、あの人を冷たいと見ては、み熊野の浦ではないが、恨めしく思いながらも恋しく思うのだろうか。
鑑賞
巻第八 恋歌下 269

 何度も相手を冷たいと思い知りながら、恨めしさと恋しさが入り交じる心を詠んだ一首である。「見」と「み熊野」、「浦」と「恨めし」を掛け、歌枕の熊野の浦にことよせて、断ちきれない恋の矛盾した思いを表している。

 初句「幾かへり」は、何度という意で、繰り返しを強調する。
 二句「つらしと人を」は、相手を冷たいと思う心をいう。
 三句「みくまのの」は、相手を「見」る意と、紀伊国の歌枕「み熊野」とを掛けている。
 四句「うらめしながら」は、み熊野の「浦」と「恨めし」とを掛け、逆接の「ながら」で、恨めしく思いながらもという意を表す。
 結句「恋しかるらむ」は、現在推量の「らむ」で、初句の「幾かへり」を受け、何度恋しく思うのだろうかと結ぶ。

みくまの:紀伊国の熊野。相手を見る意の「見」を掛ける
うら:み熊野の浦と、「恨めし」の「うら」を掛ける
作者
和泉式部
出典
詞花和歌集
前の歌
まだ知らぬことをばいかが教ふべき 人を忘るる身にしあらねば
次の歌
夕暮れは待たれしものを今はただ 行くらむ方を思ひこそやれ