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夕暮れは待たれしものを今はただ
行くらむ方を思ひこそやれ

歌の意味
夕暮れは、あの人の訪れが自然と待たれたものだったのに、今はただ、あの人が今ごろ向かっているであろう方角を思いやるばかりだ。
鑑賞
巻第八 恋歌下 270

 かつては恋人の訪れを夕暮れごとに待っていたが、心の離れた今は、相手が今ごろ向かっているであろう方角を、ただ思いやるばかりだと詠む一首である。待つことさえなくなった恋の終わりの寂しさが、静かに表れている。

 初句「夕暮れは」は、恋人の訪れを待つ時刻である夕暮れを、係助詞「は」で取り立てる。本巻の第二百四十九首も夕暮れの物思いを詠んでいる。
 二句「待たれしものを」は、自発の「る」と過去の「き」、逆接の「ものを」で、自然と待たれたものだったのにという意を表す。
 三句「今はただ」は、今となってはただという意で、過去と現在とを対比させる。
 四句「行くらむ方を」は、現在推量の「らむ」で、相手が今ごろ向かっているであろう方角をいう。
 結句「思ひこそやれ」は、「思ひやる」の間に係助詞「こそ」をはさみ、已然形「やれ」で結ぶ係り結びで、思いやるばかりだと強く結ぶ。

おもひやる:遠く離れたものに思いを馳せる
作者
相模
出典
詞花和歌集
前の歌
幾かへりつらしと人をみくまのの うらめしながら恋しかるらむ
次の歌
忘らるる人目ばかりを嘆きにて 恋しきことのなからましかば