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忘らるる人目ばかりを嘆きにて
恋しきことのなからましかば

歌の意味
忘れられた身を人に見られる体裁だけを嘆きの種として、恋しいという思いがなかったならば、どんなによいだろうか。
鑑賞
巻第八 恋歌下 271

 相手に忘れられたことを人目に恥じる嘆きだけならまだしも、そのうえ恋しさまで消えないのがつらいと詠む一首である。恋しさそのものがなければよいという反実仮想の願いに、断ちきれない思いの深さが表れている。
 恋歌下の巻末に置かれた歌で、巻頭の第二百三十三首が早く逢いたいと焦がれる思いを詠んだのに対し、恋しさのなくなることを願う歌で巻を閉じている。

 初句「忘らるる」は、受身の「る」の連体形で、忘れられるという意を表す。本巻の第二百六十五首と同じ初句で、忘れられる身の嘆きを再び取り上げている。
 二句「人目ばかりを」は、副助詞「ばかり」で、人に見られる体裁だけをと限定する。
 三句「嘆きにて」は、嘆きの種としてという意を表す。
 四句「恋しきことの」は、恋しいという思いをいう。巻頭の第二百三十三首の焦がれる恋心に対し、巻末では恋しさがなければと願う形で呼応している。
 結句「なからましかば」は、反実仮想の「まし」の未然形「ましか」に「ば」が付いた仮定で、帰結を言いさし、恋しさがなかったならばと余情を残して結ぶ。

ひとめ:人の見る目、世間の目
作者
よみ人しらず
出典
詞花和歌集
前の歌
夕暮れは待たれしものを今はただ 行くらむ方を思ひこそやれ
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春霞かすめる方や津の国の ほのみしま江のわたりなるらむ