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春来ればあぢかた頼み一方に
うくてふ魚の名こそ惜しけれ

歌の意味
春が来ると、あちらの方を頼みにして、一方にばかり浮くという魚の名のように、浮いた評判が立つのが惜しいことだ。
鑑賞
巻第九 雑歌上 278

 春になると一方に浮くという魚を引き合いに出し、その「浮く」に「浮き名」を重ねて、浮いた評判の立つことを惜しむ心を詠んだ一首と見られる。詞書がなく詠作の事情は明らかでないが、魚の習性に人の評判を重ねた機知の歌である。
 結句の「名こそ惜しけれ」は、評判の立つことを惜しむ常套の言い回しで、恋の浮き名を気づかう歌によく用いられた。

 初句「春来れば」は、已然形に「ば」が付いた確定条件で、春が来るとという意を表す。
 二句「あぢかた頼み」は、語義に定説を見ないが、あちらの方を頼りにしてという意に解される。
 三句「一方に」は、一方にばかりという意で、偏りを示す。
 四句「うくてふ魚の」は、「といふ」のつづまった「てふ」で、浮くという魚をいい、「浮く」に「浮き名」の意を響かせている。
 結句「名こそ惜しけれ」は、係助詞「こそ」と形容詞「惜し」の已然形による係り結びで、評判の立つのが惜しいと結ぶ。

あぢかた:語義に定説を見ない。あちらの方の意に解される
うく:魚が水に浮く意に、「浮き名」の「浮き」を響かせる
な:評判、うわさ
作者
大江匡房
出典
詞花和歌集
前の歌
散らぬ間に今ひとたびも見てしかな 花に先立つ身ともこそなれ
次の歌
身を知らで人を恨むる心こそ 散る花よりもはかなかりけれ