古典和歌stream

今はただ昔ぞ常に恋ひらるる
残りありしを思ひ出にして

歌の意味
今はただ昔ばかりがいつも恋しく思われる。まだ先が残っていたあのころを思い出として。
鑑賞
巻第九 雑歌上 343

 老いた今は、まだ人生の先が残っていた昔のことばかりが、いつも恋しく思われると詠む一首である。残り少ない今と、先の長かった昔とを対比させ、過ぎた日々への懐かしさを表している。
 本巻の第三百四十五首も昔を恋しく思う心を詠み、昔を恋う歌が続いている。

 初句「今はただ」は、今となってはただという意を表す。
 二句「昔ぞ常に」は、係助詞「ぞ」で昔を強く取り立てる。
 三句「恋ひらるる」は、自発の「らる」の連体形で「ぞ」を受けて結ぶ係り結びで、自然と恋しく思われるという三句切れである。
 四句「残りありしを」は、過去の「き」の連体形で、まだ人生の先が残っていた昔をいう。
 結句「思ひ出にして」は、そのころを思い出としてという意で、倒置によって昔を恋う理由を示して結ぶ。

のこり:残りの命、余生
出典
詞花和歌集
前の歌
埋もれ木の下は朽つれどいにしへの 花の心は忘れざりけり
次の歌
老いてのち昔を偲ぶ涙こそ ここら人目を忍ばざりけれ