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老いてのち昔を偲ぶ涙こそ
ここら人目を忍ばざりけれ

歌の意味
老いてからのち、昔を偲んで流す涙こそは、多くの人目を忍ぶこともなくこぼれてしまうことだ。
鑑賞
巻第九 雑歌上 344

 老いてから昔を懐かしんで流す涙は、人目をはばかることもできずにこぼれてしまうと詠む一首である。「偲ぶ」と「忍ぶ」の同じ音の語を重ね、昔を思う心の深さと、それを抑えられない老いの涙とを表している。

 初句「老いてのち」は、年老いてからのちという意を表す。
 二句「昔を偲ぶ」は、昔を懐かしく思い出すことをいう。
 三句「涙こそ」は、係助詞「こそ」で、昔を偲ぶ涙を強く取り立てる。
 四句「ここら人目を」は、たくさんの人目をいう。
 結句「忍ばざりけれ」は、人目を避ける意の「忍ぶ」に打ち消しの「ず」と詠嘆の「けり」の已然形が付き、「こそ」を受けて結ぶ係り結びで、人目を忍ぶことができないと結ぶ。二句の「偲ぶ」と同じ音の語を、異なる意で重ねている。

ここら:たくさん、多く
しのぶ:昔を懐かしく思う意の「偲ぶ」と、人目を避ける意の「忍ぶ」がある
作者
清原元輔
出典
詞花和歌集
前の歌
今はただ昔ぞ常に恋ひらるる 残りありしを思ひ出にして
次の歌
行く末のいにしへばかり恋しくは 過ぐる月日も嘆かざらまし