思ひやれ心の水の浅ければ
かきながすべき言の葉もなし
- 歌の意味
-
察してほしい。心の水が浅いので、書き流すべき言葉もないのだ。
- 鑑賞
-
巻第十 雑歌下 369
心を水にたとえ、その水が浅いので、書き流すべき言葉も浮かばないと詠む一首である。歌や文を求められて、それに十分に応えられない自らの心の浅さをへりくだって述べたものと見られ、「水」「浅し」「流す」「葉」と水辺の縁語を連ねている。
前歌の第三百六十八首が涙を川の流れにたとえたのを受け、ここでは心を水にたとえている。
初句「思ひやれ」は、命令形で、察してほしいと呼びかける初句切れである。
二句「心の水の」は、心を水にたとえた語である。
三句「浅ければ」は、已然形に「ば」が付いた確定条件で、浅いのでという意を表す。
四句「かきながすべき」は、文字を「書き」流す意と、水を「掻き」流す意とを掛け、二句の「水」と縁語をなす。
結句「言の葉もなし」は、言葉もないと結び、「葉」も水に流れるものとして縁語をなす。
かきながす:文字を書き流す意と、水を掻き流す意を掛ける
ことのは:言葉
- 出典
-
詞花和歌集
- 前の歌
-
涙川その水上を尋ぬれば 世の憂き目より出づるなりけり
- 次の歌
-
かりそめの憂き世の闇をかき分けて うらやましくも出づる月かな