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思ひ出もなき故郷の山なれど
隠れゆくはたあはれなりけり

歌の意味
思い出も何もない故郷の山ではあるけれども、遠ざかるにつれて見えなくなっていくのは、やはりしみじみと悲しいことだ。
鑑賞
巻第十 雑歌下 391

 これといった思い出もない故郷の山であるが、旅立って遠ざかるにつれてその山が隠れていくのは、やはり心にしみると詠む一首である。故郷への愛着などないと思っていたのに、見えなくなるときに思わずこみ上げる感慨を素直に表している。
 前の歌から続く旅の歌の一つで、都を思う歌に対し、ここでは故郷の山に別れを惜しんでいる。

 初句「思ひ出も」は、係助詞「も」で、思い出さえもという意を表す。
 二句「なき故郷の」は、思い出のない故郷をいう。
 三句「山なれど」は、断定の「なり」の已然形と逆接の「ど」で、山であるけれどもという意を表す。
 四句「隠れゆくはた」は、山が隠れていくことをいい、副詞「はた」で、それもまたやはりという意を添える。
 結句「あはれなりけり」は、詠嘆の「けり」で、しみじみと心にしみることだと結ぶ。

ふるさと:生まれ育った土地
出典
詞花和歌集
前の歌
昔見し垂井の水は変はらねど 映れる影ぞ年を経にける
次の歌
いにしへを恋ふる涙にくらされて おぼろに見ゆる秋の夜の月