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花を見むとしも思はで来し我ぞ
深き山路に日数経にける

歌の意味
花を見ようと特に思って来たわけでもない私が、花に引かれて深い山路で幾日も過ごしてしまったことだ。
鑑賞
春歌 58

詞書「尋花」
 花を見ようと格別に思って来たわけでもないのに、気がつけば花に引かれて深い山路で何日も過ごしてしまったと詠む。題の「尋花」を、知らず知らずに花を尋ね歩いてしまう心として表した歌である。
 類従本では詞書を「花をたづぬといふ事を」とする。底本の四句は一字が読み取りにくく、通行の本文により「深き山路に」とした。

 初句「花を見む」の「む」は意志で、花を見ようとの意である。
 二句「としも思はで」の「しも」は強意で、特にそうとも思わずにの意となる。
 三句「来し我ぞ」の「ぞ」は係助詞で、結句の連体形と呼応する。
 四句「深き山路に」は、人里を遠く離れた山道を示す。
 結句「日数経にける」は「ぞ」の結びの連体形で、前歌の第五十七首と同じ「経にける」で結ばれる。前歌が山里で多くの春を経たことを詠んだのに対し、ここでは山路での日数を詠み、時の尺度を変えて対応させている。

ひかず:日の数、日数
作者
源実朝
出典
金槐和歌集
前の歌
桜花咲き散る見れば山里に 我ぞ多くの春は経にける
次の歌
今しはと思ひしほどに桜花 散る木のもとに日数経ぬべし