木のもとの花の下臥し夜ごろ経て
わが衣手に月ぞ馴れぬる
- 歌の意味
-
木の下で花の下に伏して寝る夜が幾晩も続いて、私の袖には月の光もすっかり馴れ親しんでしまったことだ。
- 鑑賞
-
春歌 62
詞書は前の歌に続き「屏風の絵に旅人あまた花の下に伏せる所」
桜の木の下で旅寝を重ねるうちに、袖に宿る月の光とも馴れ親しんでしまったと詠む。花の下に幾夜も過ごした長さを、月とのなじみによって表した趣向で、屏風絵に寄せた四首を結ぶ。賀茂真淵は三句と結句が後の世の詠みぶりだと評している。
初句「木のもとの」は、前歌の第六十首、第六十一首から続く語で、四首を通して木の下の情景が描かれる。
二句「花の下臥し」の「下臥し」は木の下に伏して寝ることである。
三句「夜ごろ経て」は、幾夜も過ごしての意で、真淵が後の世風と評した句である。
四句「わが衣手に」は前歌と同じ句で、前歌では花が散りかかった袖に、ここでは月が宿る。
結句「月ぞ馴れぬる」は係助詞「ぞ」と完了「ぬ」の連体形による係り結びである。前歌の昼の散る花から夜の月へと移り、本巻の第五十九首で「日数経ぬべし」と予感した滞在が現実となったさまを示す。
したぶし:木の下に伏して寝ること
よごろ:幾夜にもわたること
なる:馴れ親しむ
- 作者
-
源実朝
- 出典
-
金槐和歌集
- 前の歌
-
木のもとに宿りをすれば片敷きの わが衣手に花は散りつつ
- 次の歌
-
尋ねても誰にか問はむ故郷の 花も昔の主ならねば