咲きにけりながらの山の桜花
風に知られで散りも過ぎなむ
- 歌の意味
-
咲いたのだなあ、長等の山の桜の花よ。風に知られないまま、散る時を迎えてほしい。
- 鑑賞
-
春歌 69
詞書「花厭風」
長等山の桜が咲いたことを喜びつつ、風に見つかって吹き散らされることなく、自然に散る時を迎えてほしいと願う歌である。題の「花厭風」のとおり、花が風を嫌うという心を、花を守りたい作者の願いとして詠む。
類従本では詞書を「花風をいとふ」とし、類従本と定家所伝本では結句を「春も過ぎなむ」とする。底本の結句は一部の文字が読み取りにくく、和歌データベースの本文により「散りも過ぎなむ」とした。
初句「咲きにけり」は詠嘆の「けり」で、開花を喜び、ここで句切れとなる。
二句「ながらの山の」は近江国の長等山に、そのままの意の「ながら」を掛け、咲いたままの花を思わせる。
三句「桜花」は呼びかけの相手を示す。
四句「風に知られで」の「で」は打消の接続助詞で、風に知られないでの意である。本巻の第四十七首の「風に知らすな」と同じ発想で、風を花の敵とする。
結句「散りも過ぎなむ」の「なむ」は願望の終助詞で、風に吹き散らされることなく散る時を過ごしてほしいと願う。次歌の第七十首の「花恨風」と題が対をなしている。
ながら:近江国の長等山と、そのままの意の「ながら」とを掛ける
- 作者
-
源実朝
- 出典
-
金槐和歌集
- 前の歌
-
逢坂の関の関屋の板びさし まばらなればや花の漏るらむ
- 次の歌
-
心憂き風にもあるかな桜花 咲くほどもなく散りぬべらなり