古典和歌stream

今年さへ訪はれで暮れぬ桜花
春もむなしき名にこそありけれ

歌の意味
今年までも人に訪ねられないまま暮れてしまった、故郷の桜の花よ。春というのも、むなしい名にすぎないのだった。
鑑賞
春歌 88

詞書「故郷惜花」
 荒れた故郷の桜が、今年もまた誰にも訪ねられないまま春が暮れてしまったことを嘆く歌である。人に見られない花には、春という名もむなしいものだと、故郷の寂しさを花に託して詠む。賀茂真淵は四句が後の世の詠みぶりだと評している。
 類従本では詞書を「故郷惜花心を」とする。底本の二句は一字が読み取りにくく、通行の本文により「訪はれで」とした。

 初句「今年さへ」の「さへ」は添加で、今年までもの意となり、例年の寂しさを示す。
 二句「訪はれで暮れぬ」は、人に訪ねられないまま春が暮れたの意で、ここで句切れとなる。
 三句「桜花」は、故郷に咲く花への呼びかけである。
 四句「春もむなしき」は、春という名もむなしいの意で、真淵が後の世風と評した句である。
 結句「名にこそありけれ」は係助詞「こそ」と已然形「けれ」による係り結びで、気づきの詠嘆を表す。本巻の第七十三首が人の顧みない山桜を自分だけは訪ねると詠んだのと対照をなす。

とふ:訪れる、訪問する
作者
源実朝
出典
金槐和歌集
前の歌
山桜今はの頃の花の枝に 夕べの雨の露ぞこぼるる
次の歌
散りぬれば訪ふ人もなし故郷は 花ぞ昔の主なりける