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さざ波や志賀の都の花盛り
風より先に訪はましものを

歌の意味
志賀の旧都の花盛りを、風が吹き散らすよりも先に訪ねていればよかったのに。
鑑賞
春歌 90

詞書は前の歌に続き「故郷惜花」
 天智天皇の大津宮があった志賀の旧都の花盛りを、風に散らされる前に訪ねればよかったと悔やむ歌である。荒れた旧都に咲く花への思いと、それを見逃した後悔とを重ねている。賀茂真淵は合点を付している。
 志賀の旧都と花とを取り合わせる趣向は、『千載和歌集』の平忠度の「さざなみや志賀の都は荒れにしを昔ながらの山桜かな」にも見え、初句と二句はこの歌と同じ言葉を用いている。底本の結句は一字が読み取りにくく、通行の本文により「訪はましものを」とした。

 初句「さざ波や」は「志賀」にかかる枕詞である。
 二句「志賀の都の」は近江国の大津宮の跡を示し、本巻の第六十四首の「志賀の花園」と同じ地を詠む。
 三句「花盛り」は体言で、旧都の花の盛りを示す。
 四句「風より先に」は、風が花を散らすよりも前にの意である。
 結句「訪はましものを」の「まし」は反実仮想で、「ものを」と逆接の詠嘆で結び、訪ねればよかったのにと悔やむ。前歌の第八十九首の「訪ふ人もなし」を受け、自分も訪ねなかったことを嘆く。

さざなみ:琵琶湖南西岸一帯の古い地名。「志賀」にかかる枕詞として用いる
作者
源実朝
出典
金槐和歌集
前の歌
散りぬれば訪ふ人もなし故郷は 花ぞ昔の主なりける
次の歌
春深みあらしの山の桜花 咲くと見しまに散りにけるかな