田子の浦の岸の藤波立ち返り
折らでは行かじ袖は濡るとも
- 歌の意味
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田子の浦の岸の藤の花房を、引き返してでも折らずには行くまい。たとえ袖は波に濡れようとも。
- 鑑賞
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春歌 110
詞書「屏風の絵に田子の浦に旅人藤の花を折りたる所」
屏風に描かれた、田子の浦で旅人が藤の花を折っている絵に寄せた歌である。岸辺の藤の美しさに、たとえ袖が波に濡れても引き返して折らずにはいられないと、旅人の心になって詠む。
初句は貞享本に「田子の浦」、類従本に「田籠の浦」とあり、類従本の詞書には一字の脱字がある。多祜の浦の藤は『万葉集』の大伴家持らの歌に「多祜の浦の底さへにほふ藤波をかざして行かむ見ぬ人のため」と詠まれている。
初句「田子の浦の」は六音の字余りで、藤の名所として万葉集に詠まれた多祜の浦を思わせる。
二句「岸の藤波」は、岸辺に咲く藤の花房を波にたとえる。
三句「立ち返り」は前歌の第百九首と同じ語で、「藤波」の「波」と縁語になる。
四句「折らでは行かじ」の「で」は打消の接続、「じ」は打消の意志で、折らずには行くまいの意となり、ここで句切れとなる。
結句「袖は濡るとも」は、たとえ袖が濡れてもの意で、倒置となっている。「濡る」も「波」の縁語である。
たごのうら:越中国布勢の水海の多祜の浦。藤の名所として万葉集に詠まれる
ふぢなみ:藤の花房が風に揺れるさまを波にたとえた語
- 作者
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源実朝
- 出典
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金槐和歌集
- 前の歌
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立ち返り見ても渡らむ大井川 川辺の松にかかる藤波
- 次の歌
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いとはやも暮れぬる春かわが宿の 池の藤波うつろはぬまに