見てのみぞ驚かれぬるぬばたまの
夢かと思ひし春の残れる
- 歌の意味
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見るだけで、はっと驚かされたことだ。夢であったかと思っていた春が、ここに残っているのだから。
- 鑑賞
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春歌 132
詞書「屏風に春の景色を絵描きし所を夏見てよめる」
夏になって、春の景色を描いた屏風を見て詠んだ歌である。すでに過ぎ去り、夢のようにはかなく思われていた春が、屏風の中にまだ残っているのを見て、はっと驚く心を詠む。過ぎた春への名残を、絵の中の春によって確かめる一首で、春部を締めくくる。賀茂真淵は合点を付し、「烏羽玉」と書く例はなく、後の人がこの語を思い誤ったもので、万葉集で「烏玉」と書いたのは黒い玉のことだと表記について述べている。
類従本では雑部に収め、詞書を「屏風に春の絵かきたる所を…」とする。原本の詞書には「絵かき所を」とあり、一字の脱字があると見られる。
初句「見てのみぞ」の「のみ」は限定、「ぞ」は係助詞で、見ただけでと強調する。巻頭の第一首の「今朝見れば」と、見ることによって春を知る点で呼応している。
二句「驚かれぬる」の「れ」は自発で、思わず驚かされたの意となり、「ぞ」の結びの連体形として、ここで句切れとなる。
三句「ぬばたまの」は「夢」にかかる枕詞である。
四句「夢かと思ひし」は、夢であったかと思っていたの意で、過ぎ去った春のはかなさを示す。本巻の第七十二首の「夢か現か」を思わせる。
結句「春の残れる」は存続の「り」の連体形で結ぶ連体止めで、余情を残す。巻頭の第一首で天から訪れた春が、巻末では屏風の中に残る春として詠まれ、春部の始まりと終わりが呼応している。
ぬばたま:ヒオウギの黒い実。「黒」「夜」「夢」などにかかる枕詞
おどろく:はっと気づく、目が覚める
- 作者
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源実朝
- 出典
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金槐和歌集
- 前の歌
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聞かざりき弥生の山の郭公 春加はれる年にはありしか
- 次の歌
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惜しみこし花の袂も脱ぎかへつ 人の心ぞ夏にはありける