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秋風になに匂ふらむ藤袴
主は古りにし宿と知らずや

歌の意味
秋風に吹かれて、どうしてそんなに香っているのだろう、藤袴よ。主はもう古びて去ってしまった宿だと知らないのか。
鑑賞
秋歌 216

詞書「鳥狩しにとがみが原といふ所に出で侍りし時荒れたる庵の前に藤袴の咲けるを見て」
 鷹狩りのために「とがみが原」という所に出かけたとき、荒れはてた庵の前に藤袴が咲いているのを見て詠んだ歌である。主のいなくなった荒れた庵とも知らずに、秋風の中で香り立つ藤袴に問いかけ、人の世の移ろいと変わらず咲く花との対照を描いている。
 類従本では詞書の字句がやや異なり、藤袴を「蘭」と記す。とがみが原は相模国の地名とされ、鎌倉に住んだ作者が実際に出かけた折の歌と見られる。

 初句「秋風に」は、秋風の吹くなかでの意である。
 二句「なに匂ふらむ」の「なに」は、どうしての意で、現在推量の「らむ」とともに、なぜ香っているのだろうと問い、ここで句切れとなる。
 三句「藤袴」は、呼びかけの対象として据えられる。前歌の第二百十五首の初句と同じ花で、二首が藤袴を詠む。
 四句「主は古りにし」は、主はもう年を経て去ってしまったの意で、前歌で問うた藤袴の「主」を受けている。
 結句「宿と知らずや」の「や」は疑問で、荒れた宿とは知らないのかと問いかける。前歌が主を問うて答えを得られなかったのに対し、本歌では主のいない宿であることを花に告げており、二首が問いと答えのように並んでいる。

とがり:鷹を使って鳥を狩ること、鷹狩り
とがみがはら:相模国の地名とされる
ふる:年を経る、古びる
作者
源実朝
出典
金槐和歌集
前の歌
藤袴着て脱ぎかけし主や誰 問へど答へず野辺の秋風
次の歌
よそに見て折らでは過ぎじ女郎花 名をむつまじみ露に濡るとも