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思ひ出でて昔をしのぶ袖の上に
ありしにもあらぬ月ぞ宿れる

歌の意味
昔を思い出してしのぶ涙に濡れた袖の上に、昔とは違って見える月の光が宿っている。
鑑賞
秋歌 273

詞書は前の歌に続き「月の歌とて」
 昔を思い出してしのび泣く涙に濡れた袖の上に、かつてとは違って見える月の光が映っていると詠んだ歌である。月は変わらないはずなのに昔と違って見えるのは、自分の心や境遇が変わったからであり、その移ろいを嘆く心が込められている。
 この歌は『新勅撰和歌集』に入集している。類従本では詞書を「月をよめる」とし、雑部に収める。賀茂真淵は四句について、後世風の詠みぶりであると評している。

 初句「思ひ出でて」は字余りで、昔を思い出しての意である。
 二句「昔をしのぶ」は、昔を懐かしく思い慕うの意である。
 三句「袖の上に」は字余りで、涙に濡れた袖の上にの意である。前歌の第二百七十二首の「袖の露」を受け、本歌ではその露に月が宿るとしている。
 四句「ありしにもあらぬ」は、昔のままではない、以前とは違ってしまったの意である。
 結句「月ぞ宿れる」は、係助詞「ぞ」を受けて存続の「り」の連体形「る」で結び、袖の涙に月が映っているさまを示す。前歌では月にもの思う夜を重ねて涙を流し、本歌ではその涙に月が宿り、二首が涙と月とで結ばれている。

しのぶ:昔を懐かしく思い慕う
やどる:映る、とどまる
作者
源実朝
出典
金槐和歌集
前の歌
我ながらおぼえず落つる袖の露 月にもの思ふ夜ごろ経ぬれば
次の歌
草の庵にひとり眺めて年も経ぬ 友なき宿の秋の夜の月