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伊勢の海や波にたけたる秋の夜の
有明の月に松風ぞ吹く

歌の意味
伊勢の海よ。波の上にすっかり更けわたった秋の夜の、有明の月のもとに松風が吹いている。
鑑賞
秋歌 280

詞書は前の歌に続き「海辺月」
 伊勢の海の波の上に秋の夜がすっかり更けわたり、夜明けの空に残る有明の月のもとで、浜の松に風が吹いていると詠んだ歌である。波の音と松風の音、明け方の月とが重なり、海辺の秋の夜明けの寂しく澄んだ情景を描いている。
 類従本では二句を「波にかけたる」とし、定家所伝本も「なみにかけたる」とする。参照した底本の本文では二句に異文が並んで見えるため、注記に照らして「波にたけたる」とした。

 初句「伊勢の海や」は字余りで、「や」は詠嘆の間投助詞である。前歌の第二百七十九首の三句と同じ伊勢の海を詠む。
 二句「波にたけたる」は、波の上に秋の夜が更けわたったの意で、「たけ」は盛りを過ぎて深まることをいう。類従本などの「かけたる」では、月が波に影を落とす意となる。
 三句「秋の夜の」は、秋の夜のの意である。
 四句「有明の月に」は字余りで、夜が明けても空に残る月をいう。前歌の秋の夜の月に続き、本歌では夜明けの月を詠んでいる。
 結句「松風ぞ吹く」は、係助詞「ぞ」を受けて連体形「吹く」で結ぶ。

たく:盛りを過ぎる、深まる
ありあけ:夜が明けても空に月が残っていること、またその月
作者
源実朝
出典
金槐和歌集
前の歌
たまさかに見るものにもが伊勢の海の 清き渚の秋の夜の月
次の歌
須磨の海人の袖吹き返す潮風に うらみて更くる秋の夜の月