古典和歌stream

み吉野の山下風の寒き夜を
誰ふるさとに衣打つらむ

歌の意味
吉野の山から吹き下ろす風の寒い夜に、いったい誰が古里で衣を打っているのだろうか。
鑑賞
秋歌 290

詞書「故郷擣衣」
 吉野の山から吹き下ろす風の寒い夜に、かつて離宮のあった古里の吉野で、いったい誰が衣を打っているのだろうかと詠んだ歌である。寒風の中に響く砧の音に、古里に残る人の寂しい暮らしを思いやっている。
 類従本と定家所伝本では四句に異同がある。『新古今和歌集』の藤原雅経の「み吉野の山の秋風さ夜更けてふるさと寒く衣打つなり」と同じく、吉野の古里の砧を詠んでいる。なお参照した底本の本文では四句に欠字があり、定家所伝本の「たれふるさとに」によって補った。

 初句「み吉野の」の「み」は接頭語で、大和国の吉野をいう。吉野にはかつて離宮があり、古里として詠まれた。
 二句「山下風の」は、山から吹き下ろす風のの意である。
 三句「寒き夜を」は、寒い夜にの意である。
 四句「誰ふるさとに」は、誰が古里でという問いで、題の「故郷」を表す。
 結句「衣打つらむ」は、現在推量の「らむ」で、衣を打っているのだろうかと推し量る。本巻の第二百八十八首と同じ結句で、そこでは打つ人の心を、本歌では打つ人が誰かを推し量っている。

みよしの:大和国の吉野。「み」は接頭語
やましたかぜ:山から吹き下ろす風
作者
源実朝
出典
金槐和歌集
前の歌
夜を寒み寝覚めて聞けば長月の 有明の月に衣打つなり
次の歌
ひとり寝る寝覚めに聞くぞあはれなる ふしみの里に衣打つ声